OKサトウタナカ

その時々の興味あることを節操なく書き綴っていきます。

【読了】戦後短編小説再発見4 漂流する家族

  戦後すぐに書かれたものと、1980年代に書かれたものでは当然、言葉遣いも背景も違う。家族の姿や形は、戦前、占領期、高度経済成長を経て変わったてきたが、“そこにはなお不易なもの、根本において変わらざるものがあるのも確かだろう”(解説より引用)。

 小説と聞くと、堅苦しい、文学論を語るなど難解なイメージが先行していたが、短編小説なら読める。この企画は、1作家1作品のみを収録するから色々な作家を知る事ができるのでお得感がある。読み終えたあと、その実感は大きく増した。久生十蘭に出会えたことが一番の収穫。それと、家族を持たない独り身として、「一人家族」(増田みず子)は身につまされた。

 父親は仕事、母親は専業主婦。夕食は一家団欒。休日はみんなでお出かけ。その幻想はとっくに壊れていて(もともとなかったのに、戦後に作り出されたともいえる)、その先にあるいくつもの家族の在り様を鋭く描いている。結局は、一人では生きていけないし、生きてきたと自分で思い込んでも誰かと関わりはある。漂流する家族は、行き場を失った家族そのものを意味している。一方では家族の型がたくさんできて、それらが社会を彷徨っているともいえる。どっちにしろ、家族そのものがなくなったわけではない。

 安倍政権が提唱する育児休暇3年取得や家族観は、たくさんできた家族の型を一つに押し込めようとしている。憲法改正とも大きく結びついている。大げさと思われるかもしれないが、この本を読んでふと感じた。