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OKサトウタナカ

その時々の興味あることを節操なく書き綴っていきます。

ハチはなぜ大量死したのか

ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)

ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)

 

  銀座ミツバチプロジェクトをはじめとした都市養蜂が注目を集めるようになった日本。ミツバチははちみつを採るだけでなく、農作物や植物の受粉交配に欠かせない。本書では、授粉作業するミツバチの役割の重要性を繰り返し訴えている。

 ミツバチの大量死は、アメリカで2006年秋にはじめて発生した。その原因を徹底して究明する様子をまとめている。農薬か。新生のウィルスか。遺伝子組み換え作物か。一つ一つの可能性を検証していくが、はっきりとした答えは出てこない。時は残酷で、ハチの大量死は終わることなく今でも続いている。

 答えは出てないが、ネオニコチノイド系農薬の使用、アーモンド畑の花粉媒介によるストレス、蜜源となる花々の減少などが複合的に絡み合ったことでCCD(蜂群崩壊症候群)*1が起きたのではないかと本書は推測している。

 複数の専門家や養蜂家が、このCCDを克服するために知恵を絞る過程は、科学ノンフィクションとしてとても面白い。ミツバチの生態を知らなくても、その仕組みを最初にたっぷりと説明してあるので、検証過程のくだりは難なく読める。生物の予備知識がなくてもしっかりと学べる。あくまで科学ノンフィクションであり、学術書の形式はとっていない。

 ミツバチに限らず花粉媒介者である昆虫がこの世から消えたら、農作物は育たない事実を知ったことに戦慄した。養蜂業が採蜜(ハチミツを採る)から花粉媒介に軸足を移しているのは、都市開発や農薬使用により野生のミツバチや昆虫が少なくなったからである。その花粉媒介用のミツバチがいなくなったら、それに頼っていた農作物(アーモンドやイチゴなど)は自家受粉(人の手でやる)の道しか残されていない。家庭菜園レベルなら可能だろうが、売り物を作る規模ならばほぼ不可能だろう。ミツバチを語ると農業や食糧問題まで話は広がる。切っても切れない親子の縁のようなもの。

 冒頭に書いた都市養蜂は、パリやロンドン、ウィーンやフランクフルトなどで盛んに行われていて、海外では珍しい光景ではない。なぜ、都市なのか。皮肉なことに農薬を使用している農村地帯に比べて、都市部は汚染されてない蜜源となる植物が実は豊富にあるからだ。銀座ミツバチプロジェクトでは、年々、採蜜量が増えていて、1トンまでに達している*2

 TPPも絡んでくる。安倍政権は、大規模農家を優遇して輸入農産物に対抗する措置を取ろうとしているが、日本の土地の広さと山間地域の多さ、農業ビジネスの考え方の違いから、アメリカの真似をしても農業の崩壊を招くだけだと思う。

しかし、結局は、日本の狭い国土のなかで、規模の経済を働かせ価格面で国際競争に勝とうなどというのはどだい無理なことだ。柑橘類をはじめさまざまな作物が自由化されていったが、結局日本の農業で生き残っているのは、そうした大規模作付けの作物でなく、山形のサクランボ、青森のリンゴなどその土地その土地の地味をいかしつつ、丹精をこめてつくっている作物だ(P.338)。

  引用した文章に出てくる地味(テロワール)。ワインの話でよく出てくる言葉で、その土地の特性を生かすという意味。大量生産で均一化した味の農産物でなく、その土地の味を楽しむ。ハチミツも同じ。その土地の自生植物から採ってきた地味が生きた蜜がいちばんおいしい。地域によって差があって当たり前。このことを多くの人が受け入れれば、これまで廃棄や露店で売られていた農産物が都市部で消費されることにつながるだろう。

 家庭菜園だけでなく趣味の養蜂が増えれば、農業や自然環境への関心が高まると思う。そんな自分もミツバチを飼うことを毎日考えている。これを読めば、飼いたくなる。エコとか農業を守るとかでなく、単純にミツバチの生態をもっと知って、おいしいハチミツを食べたいから。

 ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)

*1:実際には蜂の死骸はほとんどなく、巣箱には大量のハチミツと幼虫の世話をする内勤蜂と女王蜂しかいない。ある日、突然、ハチミツを採ってくる外勤蜂がいなくなる現象。

*2:情報元:http://www.tohmatsu.com/view/ja_JP/jp/about/csr/c06ee62988d40410VgnVCM3000003456f70aRCRD.htm